(安西冬衛『春』)

のどかととるか、孤独な決意ととるか。


彼女は西蔵の公主を夢にみた
寝床は花のやうによごれてゐた
(安西冬衛)

世界旅行
クラブ「ダイアナ」
ボックスへきたのは
森田という厚木育ちのホステスで
黒い絹靴下の留金の十仙銀貨(ダイム)が
三文オペラのモリタートを思わせた。
 
バー「ムーン」
カウンターでしけていたのは
上越線月夜野がふるさと
「だもん、月乃」と
繊い糸切歯を見せた
眼の隈蒼い織娘(おりこ)くずれの少女。
 
キャバレー「ルナ」
白いイブニングで現れたのは
福岡県浮羽町の生れで
歌劇リゴレットの詠唱
「風の中の羽根のように」エアリーな女。
 
麻布六本木、遠州浜松、そして小倉砂津と
遍歴した夜のツアーで垣間見た女の裏側
ぼくのアポロ計画・・月世界探検のリポートです
(安西冬衛『月世界旅行』)