こじんまりとした、そして名も分からぬような池が好きだった。
大きなダムが造る貯水池は、ちょっと茫漠なひんやりとした感じがあって、どこからどう見ていいかも分からなかった。無名の池の名を古い碑(いしぶみ)から糺(ただ)し、時には釣り糸を垂れたり、そんなたたずまいを記録することにささやかな喜びを感じていたので、池として一人勝ちに近い人気を獲得していたダムというジャンルについては、これまで少々、冷淡だったかもしれない。

それでもいくつか通りがかったダムを「池」として記録していくうちに、なんとなく自分なりの見どころというかツボみたいなものが分かってきて、おもしろくなってきた。

そして気が付けば訪れたダムは1900基を越えていた。全国のダムの数が3千余だとすれば、まだまだ道半ば。しかもアクセスしやすい主要なダムはほぼ行ってしまったので、残る千二百はなかなか厳しい道のりとなるだろう。

それでもダムマニア界の先人たちが激闘の末に残してくれた足跡をたどることができる。おかげで、未知の池をヤブこぎすることに比べれば苦労というほどのものでもない。

残りの千基は放棄されたアースダムの割合も多くなる。アプローチ路さえ埋もれているような。危険な溜め池のデータベースが整備され、ゆくゆくは廃ダムとなる池も増えていきそうにも思う。

なんとなく今後の二年ほどが勝負となろうか。光が当てられにくい埋没ダムを積極的に空撮し、周辺地形を含めたダム湖の姿を記録していこう。

(2021年7月)

古室堤(山形県飯豊)

古室堤(山形県飯豊)・・アプローチ路も不明で、訪れる人もないまま放置されたハイダムスペックの池の一例。空撮でなければ姿を捉えることは難しかった。

前田溜池(山形県大江)

ハイダムスペックの前田溜池(山形県大江)では、応急処置の跡がなまなましく残っていた。