家族になるというのは、皆で少しずつ、共有の嘘をつくっていうことなんじゃないだろうか。家族という幻想に騙されたふりをして、みんなで少しずつ嘘をつく。それがドアの中の真実だったんじゃないだろうか。
(村田沙耶香「タダイマトビラ」)

仮面家族というのは、案外、正しい家族のあり方なのではないかと近ごろ思うようになった。
ほんとうの家族? そんなもの、ほんとうにあるのか。

正しい優しさは無関心の上にしか成り立たないものだという、父の教えを懐かしく感じていた。以前は「そういうものか」としか捉えられなかったが、いくつかの実践を経て「そういうものだ」に変わっていた。
(中山智幸「木曜日に生まれた」文學界07/12)

「ほんとうはパパの絵を描くんだけど、ぼく、自分の顔描いちゃった。」

両親が離婚し、母と二人暮らしの少年が父の日前に幼稚園で。