「ニッポン100名池」へ。
35年以上前、四国の郷里をただ一人、自転車で夜通し走った。中学二年だった。
未知の池への初めての遠征攻略。あれからずっと、やっていることは基本的に同じまま、訪れた池が全国1万ヶ所となった。
「百名山」を著した深田久弥のように、全国の池をめぐってその土地の文化に触れながら、次世代へのよきガイドとなるような池の百選をものしたいというのが大きな目標となった。深田久弥は生涯、全国の山を歩きつづけ、登山中に死んだ。情報が少ない時代に、一部のスペシャリストの世界だった登山を多くの人に解き放った名ガイドは、後世にバイブルとなった。
日本は人工と天然で20万もの湖沼を擁し、世界でまれにみる「池の国」。それなのに、情報が横溢する21世紀になっても、まだ日本の池や湖沼の全貌は、その正確な数さえも見えていない。そんな池を相手に一個人が挑むのは無謀で笑われそうだが、近道はない。
まずは行ってみないことには始まらない。もちろん、すべてを体系の網でからめとるには、もう何世代か必要だろう。私の代でできることは限りあるが、まずは行ってみないことには始まらない。日本各地のおもだった池、あらゆるタイプの湖沼をひととおり自分の目で見てみて、やっとスタートラインに立つことができる。
それにしても、50代になり1万もの湖沼に会っても、いまだスタートラインに立てないまま予備調査の遍路がつづくとは。それだけ日本の池文化が広く深く、豊穣だったことの裏返しでもあるので、うれしい誤算ではあるが、ゴールどころかスタートがまた遠のいた。
それでも、あと千ほどの池に行けば、とりあえずひとつの区切りに達しそうだということが見えてきたのは、ささやかながらもひとつの成果と信じたい。もっともこのあとは、近づくことさえ難儀な秘奥の山池、難攻不落のダム、渡航と天候が運頼みな離島の島池など、残るも残った難敵ぞろい。老いとの時間勝負になる。
まあそんなことで、ここ一、二年、フライング気味ながら池百選の選定に取りかかっている。ざっくりとしたものは見えてきたが、そこは低きに流れる水。遠くから見える山とちがって、まったく見えていないところに、いまだ未知のすごいヤツが潜んでいる可能性もじゅうぶんあって油断ならない。
(2022年1月)
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