グレーの空に津波のシルエットが真っ黒な壁のように伸び、てっぺんは風を受けて白いしぶきが飛んでいる。思わず見上げていると、ゆっくりと落ちてきた。5秒にも10秒にも感じました。波が砕けたとき、とにかく踏ん張った。
(中村征夫・水中写真家)
奥尻島の30mの津波に襲われた体験。
今、まさにビルのような波に呑み込まれようとしているのに、筆者は波のてっぺんが風を受けて白くなっているのを観察している。あまりに圧倒的な現実を前にした人間の、パニックの先にあるどうしようもない諦念。体験した者しか書けない迫真の言葉だ。